郷土史の調べ方2026.09.11 最終更新日:2026.09.11
郷土誌・自治体史とは?――図書館とネットで無料で読める「土地の物語」
前回の記事「登記簿でたどる土地の歴史」では、法務局で取り寄せられる4つの資料から、その土地に「誰が所有して、どう使われていたか」をたどる方法をご紹介しました。しかし、登記簿や旧土地台帳からわかるのは、所有者の名前や地目(田・畑・宅地といった土地の種類)といった情報までです。その土地で人々がどんな暮らしを営み、誰がその地域を治め、どんな出来事があったのか、そうした「物語」の部分までは、公的な記録だけでは読み取れません。
その「物語」まで把握することができる資料こそが、今回ご紹介する郷土誌・自治体史です。実はあなたがお住まいの市区町村にも、土地の物語を一冊(ときには数十冊)にまとめた本がたいてい存在しています。しかも、その多くは図書館やインターネットで無料で読むことができます。この記事では、先祖調査・土地歴史調査を専門とする筆者が、郷土誌・自治体史とは何か、そこから何が分かるのか、そしてどこで・どうやって探して読めばよいのかを、実在の郷土誌・自治体史を例にご紹介します。
1.そもそも「郷土誌・自治体史」とは何か
自治体史とは、都道府県・市区町村・郡などの自治体が編集・発行する、その地域の「歴史書」です。「○○県史」「○○市史」「○○区史」「○○町史」「○○村史」といった書名で刊行され、市制施行の周年記念などを機に、歴史研究者や郷土史家が数年をかけて編さんします。
中身の作りは自治体によってさまざまですが、おおむね次のような構成をとります。
【史料編】・・・地域に残る古文書などを翻刻(活字に起こすこと)して収録・紹介したもの。
【各論編】・・・民俗・産業・寺社・人物・自然・文化財など、分野別にまとめたもの。
一方、郷土誌・郷土資料という言葉は、もう少し広い呼び方です。自治体史に加えて、地誌、民俗、地場産業や考古の調査報告、学校や神社仏閣の記念誌など、その地域を主題にした資料全般を指します。
大切なのは、これらが「地域の歴史年表」にとどまらない、ということです。その土地の産業、災害、人物、寺社、言い伝え――郷土誌は多様なテーマを調べられる、地域情報の宝庫なのです。
2.郷土誌から何が分かるのか
土地の歴史調査を行うときには、郷土誌・自治体史は必ず読むべき文献といえます。旧土地台帳で「畑」としか分からなかった土地が、郷土誌を開くと「この一帯は江戸期に○○藩領で、畑作と養蚕が盛んだった」と立体的に地域の歴史を把握することができます。
郷土誌や自治体史からは、おおむね次のような情報を知ることができます。
- ①領主・支配の歴史
- 江戸時代にその村が誰の領地だったか(大名領・旗本領・天領など)。支配の変遷は、村の性格を知る出発点です。
- ②産業・土地利用
- 何が作られていた土地・場所だったのか。農作物、宿場、漁村、鉱山、街道沿いの商いなど、土地の生業(なりわい)を把握できます。
- ③伝承・言い伝え
- 地名の由来譚や民話。事実そのものではなくても土地や地域の記憶・アイデンティティとして重要なものです。
- ④事件・災害
- 水害・地震・大火・合戦など、土地の記憶に刻まれた出来事。未来の防災の観点からも役立つといえます。
- ⑤人物・寺社
- その地域ゆかりの人物や、古い寺社の由緒。菩提寺・氏神を知る手がかりにもなります。
前回の記事で扱った登記簿・旧土地台帳が、一筆の土地について「いつ・誰が・どう使ったか」を点でとらえる資料だとすれば、郷土誌・自治体史は土地を面(地域)と物語でとらえる資料です。点の記録に面の物語を重ねたとき、はじめて「その土地の歴史」が立ち上がってきます。
3.実例:郷土誌には、こう書いてある――『若松市史』と『蓮沼村史』
では、実際の郷土誌にはどんなことが書かれているのでしょうか。ここでは、城下町の「若松市史」と海辺の農村の「蓮沼村史」、性格の異なる2冊を実例としてご紹介します。
実例① 『若松市史』――城下町の市史を読む
『若松市史』
1つめの実例は、福島県会津若松市の前身・若松市が刊行した『若松市史』上・下巻(若松市、昭和16-17年(1941-42))です。会津若松は鶴ヶ城(若松城)の旧城下町として栄えた町で、明治32年(1899)に若松市として市制を施行し、昭和30年(1955)に周辺村との合併を機に市名を「会津若松市」に改めました。つまりこの市史は、「若松市」時代に編まれた戦前の市史ということになります。
構成を見ると、上巻が通史篇・現代篇・建白篇・風俗篇・社寺篇、下巻が学芸篇・産業篇・地理篇・人物篇・法令篇となっています。年代順の通史だけでなく、風俗・社寺・産業・人物といった主題別の篇が立てられており、「自分の知りたいジャンルを拾い読みする」という自治体史ならではの使い方ができる作りです。
そして特筆すべきは、この『若松市史』が国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開(著作権保護期間満了)されていることです。ログイン不要で、誰でも自宅のパソコンやスマートフォンから全ページを読むことができます(『若松市史 上巻』/『若松市史 下巻』)。
『若松市史 上巻』を読む
通史篇では、まず「会津」という地名の沿革から解説されています。その記述によれば、会津の名は四道将軍の父子がこの地「相津」で出会い・合流したことに由来するとされます。古代は陸奥国会津郡で、養老2年(718)に一時、石背(いわしろ)国へ属し、平安初期に耶麻郡、のち大沼・河沼が分かれて会津四郡となり、寛文6年(1666)に境界を定めて会津郡を復置。明治12年(1879)に南北分割で五郡、明治32年(1899)に若松市が成立し一市五郡となったという、「会津」地名の沿革が叙述されています。その後、会津の歴史が古代から始まり、中世の葦名(蘆名)氏や蒲生氏・上杉氏、近世の会津藩主である蒲生氏や加藤氏、松平(保科)氏の治世下での出来事がまとめられています。
現代篇では、皇室に関する出来事や市制・行政の沿革、戸口、財政、兵事、交通などに関する記載があります。土地の歴史に関する記事としては、「交通及土木」の章が挙げられます。市内の新道路敷設や公園の整備、駅の解説に関する記事など、旧若松市の発展に関する情報を知ることができます。
風俗篇では、伝承やことわざ・冠婚葬祭に関することなど、当時の民俗・風習に関わる事項が記載されており、社寺篇では、市内の神社や寺院の由緒や沿革が記されています。
実例② 『蓮沼村史』――海辺の農村の村史を読む
『蓮沼村史』
2つめは、千葉県山武郡蓮沼村が刊行した『蓮沼村史』(蓮沼村史編纂委員会編、蓮沼村、平成4年(1992)、全680ページ)です。蓮沼村は九十九里浜に面した農村で、平成18年(2006)に周辺の町と合併して山武市となり、村としての歴史を閉じました。
『蓮沼村史』はまだ著作権の保護期間中ですが、国立国会図書館の「個人向けデジタル化資料送信サービス(個人送信)」の対象資料になっており、利用者登録・ログインをすれば、自宅から全ページを閲覧できます。絶版になって久しく、古書市場にもなかなか出ない町村史が自宅で読める――これは近年の調査環境の大きな進歩で、筆者の調査でも個人送信・図書館送信には日々お世話になっています。
『蓮沼村史』を読む
『蓮沼村史』は、通史篇と附篇の二篇構成で、通史篇では原始時代の九十九里の誕生から現代の歴史を叙述しています。土地の歴史に関わる記事としては、江戸時代の検地に関する記述や村の概況を記した章が挙げられます。また、当地で盛んに行われていた地引網漁や製塩に関する資料も豊富で、当時の村内の様子を垣間見ることができます。
4.郷土誌はどこで読めるか
郷土誌・自治体史は、紙とデジタルの両面から、無料で読める場合がほとんどです。
(1)図書館で探す
まずは地元の公共図書館です。多くの図書館には「郷土資料コーナー」「地域資料コーナー」があり、その市区町村と周辺の自治体史・郷土資料がまとまっています。
より広域で探すなら都道府県立図書館へ。たとえば東京都立図書館は、全国の県史・市史・郡史・町村史などの地方史資料を関連資料も含め約5万冊所蔵し、中央図書館の「地方史コーナー」では約3万冊を直接手に取れる形で並べています(出典:東京都立図書館「地方史について調べる」)。他の道府県立図書館にも同様の郷土資料室が置かれています。
蔵書検索のコツはシンプルで、タイトル欄に「自治体名+史」または「自治体名+誌」で検索すること。国立国会図書館のリサーチ・ナビ「地方史に関する文献を探すには(主題書誌)」では、タイトル欄に「○○県史」と入れる方法のほか、件名欄に「自治体名+歴史」と入れる方法、ノイズが多いときは著者・出版者欄にも自治体名を入れて絞り込む方法が案内されています。
(2)インターネットで探す(無料で読めるもの)
国立国会図書館デジタルコレクションは、デジタル化された自治体史・郷土誌の最大の入り口です。公開範囲は大きく3段階に分かれます。
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① インターネット公開
著作権処理済みの資料。ログイン不要で誰でも閲覧できます(『若松市史』はこれ)。
②個人送信・図書館送信
絶版等で入手困難な資料。個人送信は、本人確認を経て利用者登録(本登録)した日本国内居住者が、自宅から閲覧できます(『蓮沼村史』はこれ)。図書館送信は、対応する図書館の館内端末で閲覧・印刷できます。
③国立国会図書館内限定
来館しなければ閲覧できない資料で、館内端末で閲覧します。
デジタルコレクションは資料の全文検索に対応しているものも多く、書名が分からなくても「地名や人名で本文を検索したら、思わぬ郷土誌に記述が見つかった」ということが起こります。使い始めて間もない方は、調べたい地域の地名や人名をいれて、まずは検索してみましょう。
(3)探すときのコツ――「旧市町村名」で探す
見落としがちなのが、合併前の旧市町村名・旧郡名で探すことです。実例に挙げた蓮沼村がまさにそうで、現在の「山武市」で探すだけでは、蓮沼村時代の詳しい記述を収めた『蓮沼村史』にたどり着けないことがあります。古い時代については、郡誌や旧町村誌のほうが詳しいことも多いのです。自分の土地の旧地名・旧町村名は、前回の記事でご紹介した閉鎖登記簿・旧土地台帳に記された旧表示や、地名辞典と突き合わせると特定しやすくなります。
5.読むときのコツ・注意点
数百ページの自治体史を前にすると身構えてしまいますが、通読する必要はありません。次の4点を押さえれば十分です。
①索引・目次・年表から拾い読みする
まず巻末の索引や目次で、自分の土地(旧地名・字名)や関心のあるテーマに関係する箇所を探します。デジタルコレクションなら目次データや全文検索が使えます。
②編纂時期に注意する
自治体史は編まれた時代の研究水準と価値観で書かれています。実例の会津若松でいえば、戦前の『若松市史』(昭和16-17年)のあと、市は平成期に新しい『会津若松市史』シリーズを刊行しており、記述は新版で大きく更新されています。古い版と新しい版、複数の資料を突き合わせるのが基本です。
③伝承と事実を区別する
郷土誌には言い伝えや、いまでは否定された旧説も載っています。一次史料に基づく事実か、伝承・推定かを意識して読み、人に伝えるときは「〜と伝えられている」と書き添える。これは筆者が調査報告書を書くときに徹底している作法でもあります。
④出典をおさえる
役立つ記述を見つけたら、書名・編者・発行年・ページを必ずメモします。あとから確認や引用ができ、家族に伝えるときの信頼性も変わってきます。
6.郷土誌でも届かないとき――次の一歩
郷土誌・自治体史は地域を「面」でとらえる資料なので、「この番地に誰が住んでいたか」といった一筆単位・個人単位の事実までは、ふつう載っていません。そこは前回ご紹介した登記事項証明書・閉鎖登記簿・旧土地台帳・旧公図といった登記の資料の出番です。さらに、菩提寺や神社への照会、地元の郷土史家・古老への聞き取りといった現地調査を重ねると、資料だけでは埋まらない空白が埋まっていきます。
点の記録(登記)、面の物語(郷土誌)、現地調査など、資料を組み合わせるほど、土地の物語は立体的になっていきます。
まとめ
郷土誌・自治体史は、専門家でなくても、図書館とインターネットで無料で読める「土地の物語の宝庫」です。あなたの市区町村にも、先人が数年がかりで編んだ一冊が、きっとあります。まずは図書館の郷土資料コーナーか、国立国会図書館デジタルコレクションの検索窓に、お住まいの地域・調べたい地名を入れてみてください。
あなたの土地には、どんな物語が残されているでしょうか。その答えは、一冊の郷土誌の中に眠っています。
参考資料・出典
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- 『若松市史』上巻(若松市、昭和16-17年)国立国会図書館デジタルコレクション (インターネット公開)
- 『若松市史』下巻(若松市、昭和16-17年)国立国会図書館デジタルコレクション(インターネット公開)
- 『蓮沼村史』(蓮沼村史編纂委員会編、蓮沼村、1992年)国立国会図書館デジタルコレクション(図書館・個人送信限定)
- 国立国会図書館 リサーチ・ナビ「自治体史を探す」
- 国立国会図書館デジタルコレクション
- 東京都立図書館「地方史について調べる」
この記事を書いた人
執筆者:土地物語